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ハープシコード(チェンバロ)協奏曲について [クラシック音楽]

ハープシコード(チェンバロ)は、ピアノが登場するまでの間、鍵盤楽器の代表でした。構造は、ピアノが弦をハンマーで叩いて音を出すのに対してハープシコードは弦をジャックと呼ばれる爪で引っかけて音を出す構造になっています。ピアノのように音の強弱を自由に出すことはできません。すなわちクレッシェンドやデクレッシェンド奏法が苦手なのがハープシコードなのです。
ハープシコード協奏曲をはじめて誕生させたのは、私の知る限りヨハン・セバスチャン・バッハ(J.S.バッハ)ということになっています。
バッハがケーテン時代にベルリンで新しいハープシコードを発注し手に入れたところから始まっているようです。どうやらこのハープシコードはそれまでのハープシコードとは違い大きな音を出すことができる楽器だったと思われます。もともとハープシコードは、構造上大きな音量を出すことがそれまでできませんでした。バロック時代主流の弦楽アンサンブルに入ってしまうと音が弦の音に埋もれてしまい聞き手に届きにくい状態でした。ところがJ.S.バッハがケーテン時代手に入れたハープシコードはかなりの音量を出すことができたようです。製作にもJ.S.バッハがかかわっていた形跡があるのでJ.S.バッハ自身がそうなるように指導したのかもしれません。少なくともJ.S.バッハが手に入れたハープシコードは弦楽アンサンブルの中にあっても聞き手にハープシコードの音が聞こえたのに違いありません。これでハープシコード協奏曲が生まれる条件が整ったことになります。
初めてのハープシコード協奏曲は、ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調の初期稿がそれにあたります。この曲ではヴァイオリン、フルートの独奏楽器とハープシコードが初めて独奏グループに入り三つの楽器によるトリプルコンチェルトのスタイルをとっています。ハープシコードは第1楽章で初めてカデンツアを与えられています。初期稿のカデンツアは短いものでしたが、 後のこの協奏曲の名前の由来となったブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒに献上した時にはこのカデンツアが入念に書き込まれ拡大されました。
  
バッハ/ブランデンブルク協奏曲<全曲>

バッハ/ブランデンブルク協奏曲<全曲>

  • アーティスト: ブリュッヘン(フランス),バッハ,レオンハルト(グスタフ),レオンハルト(グスタフ),ダール(ルシー・バン),ビルスマ(アンナー),ドンブレヒト(ハウル),クイケン(シギスヴァルト),クイケン(ビーラント),リッパース(クロード)
  • 出版社/メーカー: ソニーレコード
  • 発売日: 1997/11/21
  • メディア: CD
   
ケーテン時代、残念ながらハープシコード協奏曲は、この曲以外作曲されていません。理由はわかりません。ただJ.S.バッハの器楽曲作品については失われてた作品数も多いのであるいは作曲されていたかもしれません。将来的に失われた作品が見つかればいいのですが。 
理由についてはここでは省略しますが、J.S.バッハはケーテンの宮廷楽長からライプツィヒのトマス教会カントル転職します。
J.S.バッハはライプツィヒのコーヒーハウスで演奏するために
ハープシコードのための協奏曲を7曲
2台のハープシコードのための協奏曲の3曲
3台のハープシコードのための協奏曲の2曲
4台のハープシコードのための協奏曲の1曲
ヴァイオリン、フルート、ハープシコードのためのトリプル協奏曲イ短調
を作曲しています。
もっとも2台のハープシコードのための協奏曲ハ長調以外は旧作や他の作曲家の作品をハープシコード協奏曲用に編曲し直したものがここでは演奏されていました。 4台のハープシコードのための協奏曲はヴィヴァルディの作品3「調和の霊感」の第10番4つのヴァイオリンのための協奏曲を編曲したものです。
ケーテン時代にはハープシコード単独の協奏曲作品は、残されませんでしたが ライプツィヒで初めてハープシコードが単独でソロを受け持つ協奏曲が誕生したことになります。
   
バッハ:チェンバロ協奏曲全集

バッハ:チェンバロ協奏曲全集

  • アーティスト: ピノック(トレヴァー),バッハ,イングリッシュ・コンサート,ギルバート(ケネス),モールテンセン(ラルス=ウルリク),クレーマー(ニコラス)
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2002/06/26
  • メディア: CD
   
2台以上使うハープシコード協奏曲には、J.S.バッハの子供たちや弟子たちが参加したと思われます。
そしてこのハープシコード協奏曲というスタイルはJ.S.バッハのの子供たちや弟子たちに受け継がれて世の中に広がっていきます。 
J.S.バッハの子供たちの中で4人が音楽家になります。
長男;ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ(1710-1784)
次男;カール・フィーリプ・エマーヌエル・バッハ(1714-1788)
五男;ヨーハン・クリストフ・フリードリヒ・バッハ(1732-1795)
六男;ヨハン・クリスティアン・バッハ(1735-1782)
この内、音楽史上重要なポジションにあるのが次男のエマーヌエルと末っ子で六男のクリスティアンです。 
   
Harpsichord Concertos

Harpsichord Concertos

  • アーティスト: W.F. Bach
  • 出版社/メーカー: Brilliant Classics
  • 発売日: 2010/05/04
  • メディア: CD
現在、長男のハープシコード協奏曲全集は、上記のCDのみです。
長男は、音楽の才能は兄弟の中で一番あったようです。個性が強いのと、父親が甘やかしたのか成人してから性格に問題があったようで他人と時々トラブルを起こしていたようです。一時期、夜の酒場でヴァイオリンを弾きながら生活費を稼いでいたこともあったようです。
長男の音楽は、性格といっしょでかなり個性的です。前古典、あるいは古典音楽というよりはロマン派の音楽に近く、例えばピアノのための12のポロネーズ集を聞いているとシューマンが評価したというのが肯けるような気がします。
ハープシコード協奏曲以外にも、かなりのCDのタイトルが輸入盤になりますが販売されています。
  
C.P.E. バッハ:チェンバロ協奏曲集 (C.P.E. Bach: Sei Concerti / Andreas Staier) [2CD] [輸入盤・日本語解説書付]

C.P.E. バッハ:チェンバロ協奏曲集 (C.P.E. Bach: Sei Concerti / Andreas Staier) [2CD] [輸入盤・日本語解説書付]

  • アーティスト: C.P.E. バッハ,ペトラ・ミュレヤンス,フライブルク・バロック・オーケストラ,アンドレアス・シュタイアー (Cem)
  • 出版社/メーカー: Harmonia Mundi France
  • 発売日: 2011/07/04
  • メディア: CD
次男坊は、世界史でかならず出てくるフリードリヒ2世のベルリンの宮廷に仕えます。多分この時エマーヌエルによってハープシコード協奏曲がベルリンに伝えられたのではないかと私はかってに思っています。次男坊は、ベルリンに仕えている時、通称「クラヴィーア奏法」というテキストを出版します。この本は、当時の音楽界に大きな影響を与えました。と同時に彼の新しい音楽様式が広まるにつれて彼の名声が高まっていきました。もっともこれがのちに大王との対立の原因の一つにもなりました。
次男坊は、かなりの数の協奏曲を残しています。上記のCDが必ずしも代表盤というのではなくCDの発売タイトル数が多いので任意で選んだだけです。
父親の時は、アンサンブルに弦楽のみ使われていましたが、この頃から、アンサンブルに管弦楽が使われるようになったのとピアノが登場しハープシコード協奏曲からピアノ協奏曲に徐々に変わっていく時期でもありました。
       
 
J.C.バッハ:鍵盤協奏曲全集(6枚組)

J.C.バッハ:鍵盤協奏曲全集(6枚組)

  • アーティスト: J.C.バッハ
  • 出版社/メーカー: CPO
  • 発売日: 2002/12/01
  • メディア: CD
末っ子のクリスチャンは、15歳の時、父親が亡くなりベルリンの次男のところに預けられます。末っ子は、次男の元で音楽の勉強をし、後にイタリヤ・ミラノに渡りバッハの子供たちの中で唯一オペラを作曲しました。彼のオペラは当時のヨーロッパの人々の支持を集め彼の名は一躍ヨーロッパ中に知れ渡りました。当時、バッハというと末っ子のことを意味していました。
上のCDは末っ子のハープシコード協奏曲及びピアノ協奏曲全曲が収録されています。
ベルリン・ハープシコード協奏曲(全6曲)は、名前の由来通り。次男のところでお勉強していた時の作品だと思われます。ピアノ協奏曲は、ロンドンあたりで活躍していた時の作品だと思います。しかし、ピアノ協奏曲を聞くとある人物をを思い浮かべます。その名は、モーツァルトです。それもそのはずでモーツァルトはクリスチャンの音楽を小さい時、お手本にしていたからです。
末っ子のCDも次男と同じくらい数多くのタイトルが現在リリースされています。
  
Complete Harpsichord Concertos

Complete Harpsichord Concertos

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: MD&G Records
  • 発売日: 2006/09/19
  • メディア: CD
「ゴールドベルク、この名前にピーンときたら・・・。あなたはバッハ通?」
うえのCDは、バッハの晩年の傑作で難曲であるゴールドベルク変奏曲の名前の由来になった人、すなわちゴールドベルクが作曲したハープシコード協奏曲2曲が納められています。 
ゴールドベルク変奏曲の由来については省略しますが、ゴールドベルク変奏曲が作曲された当時まだ10代のゴールドベルクにはたしてこの難曲を弾くことができたのかという疑問がいまだにあります。しかしこのハープシコード協奏曲を聴くと多分間違いなくゴールドベルク変奏曲を弾きこなしたと思いたくなります。ほとばしる感情のまま書いたと思われる急速なパッセージを聴いていると余計にそう思います。
ただ残念なのは彼は2曲しかハープシコード協奏曲を残しませんでした。と言うのも30ちょっと急死してしまったからです。今のところ彼の作品はこのCDしかリリースされていませんが他の作品もリリースされることを期待したいです。   
  
ガルッピ:ハープシコード協奏曲全集

ガルッピ:ハープシコード協奏曲全集

  • アーティスト: ガルッピ
  • 出版社/メーカー: Brilliant Classics
  • 発売日: 2011/12/13
  • メディア: CD
G.A.Benda: Harpsichord Concertos

G.A.Benda: Harpsichord Concertos

  • アーティスト: G.A.ベンダ,Michael Schneider
  • 出版社/メーカー: CPO
  • 発売日: 2005/07/01
  • メディア: CD
ガルッピはイタリアの音楽家でどちらかと言うとオペラの作曲家として有名です。
ベンダはボヘミヤ出身の音楽家で、バッハと同じ音楽一族の家系です。現在でもその家系は続いており音楽の世界で活躍しているそうです。
ベンダは、ベルリンの宮廷に仕えていました。バッハの次男坊とは同じ職場の仲間だったそうです。ガルッピもベルリンの宮廷と関係がありやはりバッハの次男坊とは顔見知りだったようです。多分二人も次男坊の影響を受けてハープシコード協奏曲を作曲するようになったのではないかと私は思っています。 
Six Hpd Con/Three Hpd Con

Six Hpd Con/Three Hpd Con

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Dynamic
  • 発売日: 2004/06/29
  • メディア: CD
ジョルダーニもイタリアの音楽家です。残念ながら私はこの人物のことを詳しく知りません。ただバッハの末っ子と交流があったみたいなのでその影響からハープシコード協奏曲を作曲するようになったのではないかと私は思っています。
ガルッピ、ベンダ、ジョルダーニの各CDですが、演奏スタイルはハープシコードと弦楽合奏のための協奏曲のスタイルをとっています。
Bach,J.C.F.: Concerti

Bach,J.C.F.: Concerti

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Carus
  • 発売日: 2010/02/15
  • メディア: CD
最後にバッハの五男坊のCDも紹介しておきます。
上のCDは、シンフォニーが2曲とコンチェルト・グロッソ(ピアノ協奏曲)1曲が納められているCDです。今のところ五男坊のCDの発売タイトル数は、他の兄弟と比べるとかなり少ないです。この先発売タイトルが増えることを期待しているところです。
余談ですが五男坊もモーツァルトとも仲が良かったと言われています。実際彼はモーツァルトの作品を取り上げて演奏したこともあったそうです。モーツァルトはクリスチャンの死を悲しみましたが、クリストフはモーツァルトの死を悲しんだようです。

ピアノ協奏曲の原型であるハープシコード協奏曲をJ.S.バッハは生み出しました。それが彼の子供たちや弟子たちによってヨーロッパに広がっていきました。やがてピアノが発明され進化していくとハープシコードからピアノにその主役をとって代わります。
バッハが本当にピアノ協奏曲の創始者かどうかは色々と議論があるかもしれませんが少なくともピアノ協奏曲の原型を作り出したことには間違いないといえると思います。
最後に
モーツァルトのピアノ協奏曲のCDを紹介して終わりたいと思います。
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番&23番

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番&23番

  • アーティスト: 内田光子,モーツァルト,テイト(ジェフリー),イギリス室内管弦楽団
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2005/06/22
  • メディア: CD

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